(記事引用)<国際結婚>我が子「奪還」700万円 離婚で親権トラブル (毎日新聞)

<国際結婚>我が子「奪還」700万円 離婚で親権トラブル (毎日新聞)

国際結婚をして日本で暮らしていた夫婦が離婚を巡り子供の親権でトラブルになり、一方の親が子供を母国に連れ帰るケースが相次いでいる。日本政府が国際結婚に関する紛争の解決ルールを定めたハーグ条約を締結していないため相手国の協力が得られず、親が高額な弁護士費用を払って自力で子供を連れ戻すケースが目立つ。専門家からは「放置された被害が相当あるはずで、表面化したトラブルは氷山の一角だ」との指摘が出ている。【工藤哲、坂本高志】

 日本弁護士連合会家事法制委員会の大谷美紀子弁護士が過去の相談事例などを基に調査した結果、日本で育った子供が親の母国に連れ出された事例は01年以降、少なくとも9件12人に上る。連れ出された先は▽米国5人▽フィリピン3人▽英国2人▽パキスタン、ブラジル各1人。

 英国人の父親の場合、「日本で離婚すれば妻に親権を取られ、子供と会えなくなる」と考え、母親に無断で子供2人を連れ帰った。フィリピン人の母親は離婚調停の手続き中、突然子供を連れて帰国。パキスタン人の父親は「イスラム文化の下で育てたい」と告げてパキスタンに子供を連れて一時帰国し、そのまま戻らなかった。

 日本がハーグ条約を締結していないため、親が自己負担で相手国の弁護士に紛争解決を依頼するしかなく、約700万円の高額な報酬を支払い、子供を取り戻したケースもあったという。

 国際結婚で生まれた子供の親権を巡るトラブルでは、米国、英国、カナダ、フランスの大使館公使らが5月、4カ国で育った子供が日本人の親に「連れ去られる」トラブルが把握できただけで168件に上るとの調査結果を公表。「ハーグ条約を締結していないのが紛争の原因」として、条約締結を日本に求めた。「加害者」として日本人が海外で非難されるケースに加え、今回、逆に「被害」が判明したことで、国内でも政府に対応を求める声が高まりそうだ。

 大谷弁護士は「親の離別と居住環境の激変で、子供が精神的に不安定になった例もある。日本には専門の弁護士が少ないため、被害の多くは放置されたままだ。判明した9件は氷山の一角に過ぎない」と指摘している。

 【ことば】ハーグ条約

 国際的な子の奪取の民事面に関する条約で1983年に発効した。離婚などによる国境を越えた移動自体が子供の利益に反し、子供を養育する監護権の手続きは移動前の国で行われるべきだとの考えに基づき定められた国際協力のルール。子供を連れ出された親が返還を申し立てた場合、相手方の国の政府は元の国に帰す協力義務を負う。主要8カ国(G8)のうち日本とロシアは未締結。

[毎日新聞9月3日]